「東京の合唱」小津安二郎(1931年)を見て。
今は昔、20世紀の初頭。世界は恐慌状態にありました。
子供は常に貧しいのですが、大人も職を失い、子供と同じ貧しさに直面しました。それは存在の貧しさでした。恥ずかしくて、大人は拗ねました。
主演の岡田時彦さんの表情には不平が底流しております。
その表情の変化が、世界の変化を説明し、他者に察しが付く情となります。
言うなれば、常に受話器でしかない、存在の貧しさの合唱(着信)が始まります。常なる待機状態の輪!=友達の輪!
それは、他者におもちゃを買ってもらう子供、他者に仕事を世話してもらう主人公が、ともに感じる貧しさです。
「してもらう、させていただく、ホトトギス」
(ちなみに家族という虚構に泣けぬ日本人は小津安二郎だったのでは、ないか?)
地方に仕事は決まったが、浮かぬ顔をする主人公の夫婦。
ここに日本人のリアルな輪郭が描かれる。
もう「帰ってこれない」かもしれない現在=東京。
そこに、メロディーの貧しい線をなぞる同窓生の合唱が始まる。
それはいつでも懐かしい(いつでも「帰れる」現在=日本人だ)
懐かしさで浮かぬ現在の表情。
それが東京の人のリアルに見える。
小津は都市の日本人を東京の人として、リアルに描いた初めての作家なのかしら?
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